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言わずと知れた伝説の問題です。
出題された当時、大きく話題になりました。
通常シンプルな問題というのは振り切った難問になりがちですが、本問は常識の範囲内の難問で収まっています。
複雑な計算はいらず、ボリュームも膨らまず、洞察力をシンプルに問う良問です。
とは言え、試験場での出来はよろしくなかったようです。
(以下ネタバレ注意)
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大枠は背理法
無理数だということは直感的に分かりやすいでしょう。
(ここの判断を誤ると泥沼に嵌まる)
無理数(整数の比で表せない)という否定的な命題に関する証明ということで背理法という路線をとります。
ただ、
- \tan{1^{\circ}}=\displaystyle \frac{q}{p} ( p , q は互いに素な自然数 )
などと設定しても、手詰まりになると思います。
加法定理の出番
洞察力にかかってくる部分であり、本問のメイン部分でもありますが
- \tan{2^{\circ}} も有理数じゃね?
と睨めればしめたものです。
\tan{2^{\circ}}=\displaystyle \frac{2\tan{1^{\circ}}}{1-\tan^{2}{1^{\circ}}}
ですからね。
そうなると
\tan{3^{\circ}} も有理数じゃね?
と睨めます。
3倍角を持ち出さずとも
\tan{(2+1)}^{\circ}=\displaystyle \frac{\tan{2^{\circ}}+\tan{1^{\circ}}}{1-\tan{2^{\circ}}\tan{1^{\circ}}}
と見れば、十分分かります。
帰納的に
\tan{4^{\circ}} , \tan{5^{\circ}} , \cdots も全て有理数
ということになります。(記述ではもちろん数学的帰納法で示せばよいでしょう)
これによれば
\tan{60^{\circ}}(=\sqrt{3}) も有理数
ということになってしまい、矛盾が生じているのが分かります。
背理法により、\tan{1^{\circ}} が無理数であることが示されます。
倍角公式で押し通すとなると
\tan{2^{\circ}}=\displaystyle \frac{2\tan{1^{\circ}}}{1-\tan^{2}{1^{\circ}}}
を加法定理という意識ではなく、2倍角の公式という意識で見ていると、
\tan{4^{\circ}} , \tan{8^{\circ}} , \tan{16^{\circ}} , \cdots も全て有理数
という方向性にいってしまいます。
この場合、若干自爆気味なのですが、
2+4+8+16=30
ということに気が付けば何とか着地できます。
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意欲的な方は
じゃあ \sin{1^{\circ}} や \cos{1^{\circ}} はどうだろう?
ということになるでしょう。
これについては少し厄介です。
というのも、
正接の加法定理
\tan{(\alpha+\beta)}=\displaystyle \frac{\tan{\alpha}+\tan{\beta}}{1-\tan{\alpha}\tan{\beta}}
というように、\tan{ \ } についての加法定理は \tan{ \ } のみで表せていたわけですが、\sin{ \ } や \cos{ \ } については
正弦、余弦の加法定理
- \sin{(\alpha+\beta)}=\sin{\alpha}\cos{\beta}+\cos{\alpha}\sin{\beta}
- \cos{(\alpha+\beta)}=\cos{\alpha}\cos{\beta}-\sin{\alpha}\sin{\beta}
というように \sin{ \ } と \cos{ \ } が互いの式に入り乱れて入っています。
\sin{1^{\circ}} , \cos{1^{\circ}} が有理数と仮定すれば、
- \sin{2^{\circ}} , \cos{2^{\circ}} , \sin{3^{\circ}} , \cos{3^{\circ}} , \cdots は有理数
と言えるため、60^{\circ} あたりをもちだせば、確かに矛盾します。
ただ、これによって得られる結論は
\sin{1^{\circ}} , \cos{1^{\circ}} の少なくとも一方が無理数
ということで、個別に有理数か無理数かが分かりません。
チェビシェフの多項式の活用
\cos{n\theta} を \cos{ \ } のみで表す
ということができれば、この状況を打開できそうです。
それを可能にする大きな武器が
チェビシェフの多項式
です。
詳しくは
テーマ別演習:チェビシェフの多項式
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で解説しています。
以下はチェビシェフの多項式の知識を前提とします。
チェビシェフの多項式の主張を要約すると
- \cos{n\theta} は \cos{\theta} の整数係数 n 次多項式として表せる
ということで、今回の困難を打開するのにうってつけであることが分かるでしょう。
\cos{1^{\circ}} について
\theta=1^{\circ} とおきます。
\cos{n\theta} は \cos{\theta} の整数係数 n 次多項式で表せるため、
\cos{\theta} が有理数とすると \cos{n\theta} も有理数
となります。
これにより、例えば \cos{60\theta}=\cos{60^{\circ}} も有理数となり、矛盾します。
\sin{1^{\circ}} について
\sin{ \ } の場合でも心配する必要はありません。
\sin{1^{\circ}}=\cos{89^{\circ}}
と \cos{ \ } の服を着せることができるからです。
\theta=89^{\circ} として
\cos{p\theta} が有理数
ということになります。
矛盾するような p をどのようにもってくるかですが、
p \times 89= 30 \times q
を満たすものを考えたいところですね。
89 と 30 は互いに素ですから、簡単なものとして
(p \ , \ q)=(30 \ , \ 89)
を選んで考えてみます。
すると、
\cos{p\theta}=\cos{2670^{\circ}}=\cos{150^{\circ}}
で、\cos{150^{\circ}} が有理数ということになり、矛盾します。
類題について
類題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)
少なくとも一方が無理数であることを言うだけであれば、上述したように加法定理で事足ります。
それにしても、また京大ですか(笑)