実践演習 極限・微分積分系

king property【対称性を利用した置換積分】【2005年度 名古屋大学ほか】

例題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

king property (キングプロパティー) と呼ばれる置換積分がバックボーンにあります。

ノーヒントだと泡を吹く受験生が多数出てくるでしょう。

ただ、誘導自体にも骨があるため、定積分というものをきちんと理解しているかが問われます。

(以下ネタバレ注意)

 

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定積分は「値」

本問を理解するにあたっては、積分計算において「生き残る文字」についてパッと読み取れる力が必要です。

例題

\(\displaystyle \int_{p}^{t} f(x) dx\) を計算した結果、残る文字を答えよ。

ここでいう積分変数 \(x\) はいわば「器の文字」です。

\(=\left[ F(x) \right]_p^t\)

\(=F(t)-F(p)\)

ですから、生き残る文字は \(p\) ,  \(t\) です。

もちろん、

例題2

\(\displaystyle \int_{0}^{1} f(x) dx\) を計算した結果、残る文字を答えよ。

だと、計算結果は「定数」になります。

このように、「器の文字」である \(x\) に色々ぶち込んでいくわけで、そのような認識が必要です。

積分変数の自由性

$$\begin{eqnarray}
\int_0^1 x dx
= \left[ \frac{x^2}{2} \right]_0^1
= \frac{1}{2}
\end{eqnarray}$$

$$\begin{eqnarray}
\int_0^1 y dy
= \left[ \frac{y^2}{2} \right]_0^1
= \frac{1}{2}
\end{eqnarray}$$

$$\begin{eqnarray}
\int_0^1 t dt
= \left[ \frac{t^2}{2} \right]_0^1
= \frac{1}{2}
\end{eqnarray}$$

「積分変数は器の文字」という認識があれば、上の3つは全て同じものを表しています。

文字の違いなど、定積分の値を求めるにあたっては些細な違いです。

このあたりに足首を掴まれて沼に引きずり込まれている受験生が多く、逆に言えばここを理解できればそれなりに多くの受験生と差がつきます。

本問において

例題はこちら(再掲)(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

(1) について

経験がモノを言う置換積分です。

\(\pi-x=t\) と置換します。

\(I=\displaystyle \int_{0}^{\pi}(x-\displaystyle \frac{\pi}{2})f(x) dx\) とおくと

\(I=\displaystyle \int_{\pi}^{0}\{(\pi-t)-\displaystyle \frac{\pi}{2}\}f(\pi-t)(-dt)\)

\(=\displaystyle \int_{0}^{\pi}(\displaystyle \frac{\pi}{2}-t)f(t) dt\)

\(=-\displaystyle \int_{0}^{\pi}(t-\displaystyle \frac{\pi}{2})f(t) dt\)

となります。

ここで \(\pi-x=t\) を用いて \(t\) を \(x\) にしてしまったら、元に戻ってしまいます。

先ほどの「積分変数は自由である」ということを考えれば

\(-\displaystyle \int_{0}^{\pi}(t-\displaystyle \frac{\pi}{2})f(t) dt\)

\(=-\displaystyle \int_{0}^{\pi}(x-\displaystyle \frac{\pi}{2})f(x) dx\)

\(=-I\)

ということになります。

これより、\(2I=0\) となり、\(I=0\) を得て証明完了ということになります。

(2) について

(1) で示した

\(\displaystyle \int_{0}^{\pi}(x-\displaystyle \frac{\pi}{2})f(x) dx=0\)

という式を展開して

\(\displaystyle \int_{0}^{\pi}\{xf(x)-\displaystyle \frac{\pi}{2}f(x)\}dx=0\)

としてから移項すると

\(\displaystyle \int_{0}^{\pi}xf(x) \ dx=\displaystyle \frac{\pi}{2}\displaystyle \int_{0}^{\pi}f(x) \ dx\)

と見ることになります。

\(x\) 倍(変数倍)が \(\displaystyle \frac{\pi}{2}\) 倍 (定数倍)となっていることで、積分計算に厄介な変数倍を処理できるというわけです。

king property について

king property

\(a\) ,  \(b\) を定数、\(f(x)\) を連続関数としたとき

\(\displaystyle \int_{a}^{b}f(x)dx=\displaystyle \int_{a}^{b}f(a+b-x)dx\)

が成り立ちます。

【式的証明】については例題の【総括】の後に示してあります。

ここで大事なのはこの式が「そりゃそうだわ」と思える気持ちです。

図形的イメージ

眼と頭に優しく、\(g(x)=f(a+b-x)\) と置きなおします。

任意の実数 \(s\) に対して

\(g(\displaystyle \frac{a+b}{2}-s)\)

\(=f(a+b-\displaystyle \frac{a+b}{2}+s)\)

\(=f(\displaystyle \frac{a+b}{2}+s)\)

ということが成り立ちます。

これは \(y=f(x)\) と \(y=g(x)\) が直線 \(x=\displaystyle \frac{a+b}{2}\) に関して対称であることを意味します。

したがって面積的には

というように、対称性を考えれば

\(\displaystyle \int_{a}^{b}f(x)dx=\displaystyle \int_{a}^{b}f(a+b-x)dx\)

であることは納得がいきます。

もちろん、何か意地悪されたらどうするという話にもなってきますからあくまでイメージです。

なお、この king property が本問においてはどう効いてくるかということについては、【総括】の後に触れてあります。

類題について

類題1はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

例題をきちんと学習すれば、モノの見え方が変わっているはずです。

追記

king property の代表的な問題を追記でご紹介します。

類題2はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

今は king property の学習をしたこの流れでの出題なので、頭が king property モードになっているかもしれませんが、色々な問題に紛れてポンと置いてあった場合を想定してみてください。

血となり肉となっていないとキツイものがあるでしょう。

加えてノーヒントであるため結構厳しいですが、

2つ同時に訊いてくれている

という点でまだ親切です。

類題3はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

king property の首根っこを掴むような設問が (1) で訊かれています。

今更ですが、置換のもつイメージについても少し触れておきました。

特殊な置換積分の話題

今回の話題のような特殊な置換積分については

参考定積分の難問【対称な積分区間】【2019年度 静岡県立大学】

例題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) 定積分の計算というシンプルなオチですが、ノーヒントではほとんど差がつかないでしょう。 特に (3) で誘導の使い方が分からないと、頭に血 ...

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などもありますので、場数を踏みたい方はよろしかったらどうぞ。

例題の解答はコチラ

類題1の解答はコチラ

類題2の解答はコチラ

類題3の解答はコチラ

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