実践演習 極限・微分積分系

有名曲線【カテナリー(懸垂線)】【2017年度 名古屋市立大学ほか】

例題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

カテナリー(懸垂線)と呼ばれる有名曲線を扱った問題を見ていきます。

カテナリー(懸垂線)とは

カテナリー(懸垂線)は鎖やロープの両端をもってぶら下げたときにできる曲線と紹介されるのが有名です。

カテナリー(懸垂線)を与える式

\(a\) は \(a \gt 0\) を満たす定数とするとき、カテナリー(懸垂線)を与える式は

カテナリーを与える式

\(f(x)=\displaystyle \frac{a(e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}})}{2}\)

で与えられます。

概形

しっかり微分して考えても大したことはありません。

ただ、\(f(x)=\displaystyle \frac{a(e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}})}{2}\) が偶関数であるので、\(x \gt 0\) の範囲で考えれば十分であることと、\(x \gt 0\) の範囲で単調増加であることを考えれば

のような概形となります。

\(f''(x)=\displaystyle \frac{1}{a^{2}}f(x) \gt 0\) などから下に凸であることに注意しましょう。

また、\(x \rightarrow \infty\) のときは \(\displaystyle \frac{ae^{-\frac{x}{a}}}{2}\) はゴミみたいなもんです。

そう考えると、 \(x \rightarrow \infty\) という遥か彼方では \(y=f(x)\) と \(y=\displaystyle \frac{ae^{\frac{x}{a}}}{2}\) はほとんど誤差がなく、

\(y=\displaystyle \frac{ae^{\frac{x}{a}}}{2}\) は \(y=f(x)\) の漸近線 (曲線)

であると言えます。

同様に考えれば \(y=-\displaystyle \frac{ae^{\frac{x}{a}}}{2}\) も \(y=f(x)\) の漸近線 (曲線) であると言えます。

カテナリーの式的特徴

これからカテナリーの長さや面積などの各種代表的な図形量を計算するにあたって、カテナリーの式

\(f(x)=\displaystyle \frac{a(e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}})}{2}\)

がもつ式的特徴を押さえましょう。

特徴的な式としては

①:\(1+f'(x)^{2}=\displaystyle \frac{1}{a^{2}}f(x)^{2}\)

②:\(f''(x)=\displaystyle \frac{1}{a^{2}} f(x)\)

などがあります。

① の証明

\(1+f'(x)^{2}\)

\(=1+(\displaystyle \frac{e^{\frac{x}{a}}-e^{-\frac{x}{a}}}{2})^{2}\)

\(=1+\displaystyle \frac{e^{\frac{2x}{a}}+e^{-\frac{2x}{a}}-2}{4}\)

\(=\displaystyle \frac{e^{\frac{2x}{a}}+e^{-\frac{2x}{a}}+2}{4}\)

\(=(\displaystyle \frac{e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}}}{2})^{2}\)

\(=\displaystyle \frac{1}{a^{2}}f(x)^{2}\)

② の証明

\(f'(x)=\displaystyle \frac{e^{\frac{x}{a}}-e^{-\frac{x}{a}}}{2}\)

\(f''(x)=\displaystyle \frac{e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}}}{2a}\)

証明というよりも確認に近いレベルです。

カテナリーの各種図形量について

長さについて

\(f(x)=\displaystyle \frac{a(e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}})}{2}\) として、\(y=f(x)\) の \(0 \leq x \leq t\) の部分の長さを \(L(t)\) とします。

\(L(t)=\displaystyle \int_{0}^{t} \sqrt{1+f'(x)^{2}} dx\)

上述①を用いると

\(L(t)=\displaystyle \frac{1}{a}\displaystyle \int_{0}^{t} f(x) dx\)

\(=\displaystyle \int_{0}^{t} \displaystyle \frac{e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}}}{2} dx\)

\(=\displaystyle \frac{1}{2}\left[ a(e^{\frac{x}{a}}-e^{-\frac{x}{a}}) \right]_0^t\)

\(=\displaystyle \frac{a}{2}\left[ (e^{\frac{x}{a}}-e^{-\frac{x}{a}}) \right]_0^t\)

\(=\displaystyle \frac{a}{2}(e^{\frac{t}{a}}-e^{-\frac{t}{a}})\)

面積について

\(S=\displaystyle \int_{0}^{b} f(x) dx\) について考えてみます。

\(S=a\displaystyle \int_{0}^{b} \displaystyle \frac{ e^{\frac{x}{a}}+e^{-\frac{x}{a}} }{2} dx\)

これは先ほど求めた長さ \(L(t)\) を用いて表現すれば

\(S=aL(b)\) となり、

\(S=a \cdot \displaystyle \frac{a}{2}(e^{\frac{b}{a}}-e^{-\frac{b}{a}})\)

\(=\displaystyle \frac{a^{2}}{2}(e^{\frac{b}{a}}-e^{-\frac{b}{a}})\)

となります。

注意

ここで言いたいのは、これらの結果を覚えろということではありません。

積分計算というのは形によっては、計算できないことも多々あります。

普段求められている面積や体積や長さなどの積分計算を駆使して求めさせられる図形量は、

「計算できるもの」

を選りすぐって出題されているということです。

そういった意味でカテナリーは上述のように、一般的に様々な図形量が計算可能です。

結果を覚えろというために導出したのではなく、

「計算できるんだ」

ということを実感してもらうために導出したということが言いたかったことです。

 

例題について

例題はこちら(再掲)(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

例題は \(a=1\) のときのカテナリーが題材となっています。

\(a=1\) であるとき、上述の

①:\(1+f'(x)^{2}=\displaystyle \frac{1}{a^{2}}f(x)^{2}\)

②:\(f''(x)=\displaystyle \frac{1}{a^{2}} f(x)\)

は簡単になり、

  • \(1+f'(x)^{2}=f(x)^{2}\)
  • \(f''(x)=f(x)\)

とすごくシンプルになります。

この式的特徴を活かしながら計算を進めることを念頭におきましょう。

(3) ,  (4) はプラスアルファの話題です。

(3) ではベクトルの扱い

(4) ではパラメータ曲線の扱い

に習熟している必要があります。

類題について

類題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

\(y\)軸回転体を扱っています。

最初から最後まで腕力でねじ伏せることもできますが、カテナリー特有の式的特徴をうまく利用したり、問題の設定をうまく翻訳することで工夫の余地が生まれます。

  • 腕力路線は【解 1】
  • 工夫を施した路線は【解 2】

で紹介しています。

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