実践演習 極限・微分積分系

リプシッツ連続【全称命題とその運用】【2004年度 信州大学】

問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

必ず成り立つ不等式を文字通り絶対不等式と言います。

本問はある程度の演習をこなしている人からすると、あるものがインスピレーションされると思います。

そして、本問の \(k\) の最小値について予測できてしまうとも思います。

ただし、細かな部分まで詰めていこうとすると結構ウルサイ問題です。

採点基準にもよりますが、自分の手ごたえと実際の得点率にはギャップがある問題かもしれません。

(以下ネタバレ注意)

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形的に

本問の形的に

平均値の定理

をインスピレーションした人も多いかと思います。

\(x=y\) のときは \(k\) の値によらず成立しますので、以下は \(x \neq y\) のときを考えます。

結局

\(|\displaystyle \frac{\sin{x}-\sin{y}}{x-y}| \leq k\)

が任意の実数 \(x\) ,  \(y\) について成立するような \(k\) について考えるわけです。

平均値の定理を用いると

\(|\displaystyle \frac{\sin{x}-\sin{y}}{x-y}|=|\cos{\alpha}|\)

となる \(\alpha\) が \(x\) と \(y\) の間に存在します。

よって、

\(|\displaystyle \frac{\sin{x}-\sin{y}}{x-y}| \leq 1\)

ということが言えます。

ここから、

よって \(k \geq 1\) であり、\(k\) の最小値は \(1\)

とやると、少し傷があります。

どこがマズいか分からないという方は、【総括】をご覧ください。

簡単に言うと、

実は、\(|\cos{\alpha}|=1\) となるような \(x\) ,  \(y\) が存在しません。

本問は大小関係だけ言えればよいという問題ではなく、「実際にとり得るかどうか」ということまで議論する必要があります。

方向性

上述の観点から、本問はやはり、グラフなり増減表なりを用いて

実際にこの範囲の値を取り得る

という「値域」について言及する必要があると考えます。

ただ、本問は2変数あり、そのままグラフなどを考えようとした場合、予選決勝法的な1文字固定で考えることになるでしょう。

今回はその方針は見送ります。

ここでは、本問の絶対不等式のもつ

「全称命題としての側面」

に注目します。

全称命題って何?という方は

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というシリーズで詳しく解説しています。

今回は

\(\theta \neq 0\) として

\(x=\theta\) ,  \(y=0\) でも成立する必要があるよね

という屁理屈を言います。

そうすると、\(|\sin{\theta}| \leq k|\theta|\)、すなわち

\(|\displaystyle \frac{\sin{\theta}}{\theta}| \leq k\)

が \(0\) 以外の任意の \(\theta\) に対して成立する \(k\) を考えていくことになります。

1変数であればこちらのものであり、絶対不等式の核となる考え方

左辺の一番強い奴(最大値)

に注目することになるでしょう。

一番強い奴が負けるなら、その他の連中も皆負ける(絶対成り立つ)

という論法です。

上述した「とり得る値の範囲(値域)」ということを意識して、ここでは丁寧に微分して増減表を考えていきます。

ウンチク

本問で扱ったような

\(|f(x)-f(y)| \leq k |x-y|\)

が任意の \(x\) ,  \(y\) で成立するような \(k\) が存在するとき

\(f\) はリプシッツ連続である

と言い、\(k\) をリプシッツ定数と言います。

本問の結果から \(f(x)=\sin{x}\) はリプシッツ連続なのですが、実際にはリプシッツ定数 \(k\) が

\(0 \leq k \lt 1\)

であった方が結構うれしいことが多く、リプシッツ定数 \(k\) が\(0 \leq k \lt 1\) であるような関数を「縮小関数」と言います。

入試的にはこの周辺の話題として

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