今年の九州大理系数学を解いての感想です。
難易度について
標準問題を下地としながらも、各分野の総合的な問題に仕上げていたり、逆に見慣れない設定で対応力を試すような問題もあり、完答するためには、確固たる力が必要な問題たちだったと思います。
昨年からの大きな難易度変化はないと感じましたが、絶対的な難易度は高い水準で保っているといった感じでしょうか。
少し前までは九州大学の問題は標準的なイメージがありましたが、あまりそういった「傾向と対策」に偏りすぎないように、きちんと地に足つけて勉強してきてくださいという警鐘かもしれません。
2021年度 九州大学理系 各解説記事
2021年度 九州大学理系第1問【球と平面の位置関係と交円】
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) 色々な方針が考えられます。 空間座標の問題においてはベクトルから攻めるのが常套手段ではあります。 その理由を説明するためには「方程式とは何ぞや」ということについて述べなければなりません。 「方程式とは何ぞや」ということをすごくざっくり言えば 「この=を満たす○○集まれ~」 です。 1次方程式 例:\(3x-4=5\) →意味:\(3x-4=5\) を満たす \(x\) 集まれ! →集まった結果(解):\(x=3\) ...
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2021年度 九州大学理系第2問【2次方程式の虚数解についての複素数平面上での考察】
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) 2次方程式の虚数解をもとに複素数平面上で様々なことを考察する問題です。 (1) で困る人はいないでしょうから、実質は (2) からの勝負ということになると思います。 実際この問題を見たときの私のメモです。 大体見た感じでこのあたりまで読み解いて、あとは詰めていくか、といった感じで解き進めました。 詰めの作業のときに、最後の (3) で出した \(\tan{\theta}\) の値が (1) の \(\theta\) ...
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2021年度 九州大学理系第3問【絶対不等式の考え方】【x軸回転体の体積】
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) テーマとしては (1) が絶対不等式の考え方、(2) が x 軸回転体の体積ということですが、実質は (1) が山場です。 区間 \(I\) において \(f(x) \gt c\) ( \(c\) は定数 ) が常に成立するとは 区間 \(I\) における最小値を \(m\) として \(m \gt c\) が成立する。 ということが言えます。 その区間における最小値(一番雑魚)が \(c\) に勝てるのであれば、その他の連 ...
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2021年度 九州大学理系第4問【『平均値の性質』と複素数平面における存在命題の論証】
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) 平均値の定理 \(a\) , \(b\) を \(a \lt b\) を満たす実数として、\(a \leq x \leq b\) で \(f(x)\) が微分可能としたとき \(\displaystyle \frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c)\) を満たす \(c\) が \(a \lt c \lt b\) に存在する という平均値の定理の形を彷彿とさせます。 定義域が複素数であると複素関数になってしまい、 ...
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2021年度 九州大学理系第5問【二項係数が素数となる条件】
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) 見た感じ本格的な匂いを感じました。 主張がシンプルで高級そうなオチで、今回のセットの中では目を引く問題でした。 少し愚痴ると、 \(n\) は 4 以上の自然数とする。 \(2 \leq k \leq n-2\) を満たす自然数 \(k\) に対して \({}_n \mathrm{ C }_k \gt n\) を示せ。 ぐらいまで書いておいてほしいなと思います。 自然数 \(k\) が \(2 \leq k \leq n-2\) として存在す ...
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第1問
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)
パッと見の印象は (1) はよくある問題だなと思いました。
空間座標で平面絡みの問題については平面の方程式を持ち出すかどうかというところで解法に迷います。
一応第1の解答は平面の方程式に頼らない方法とし、平面の方程式については総括の中で触れておきました。
平面の方程式を持ち出してよいのか問題については、
採点基準による
としか言えません。
個人的には数学的に間違っていなければ問題ないという意見ですが、無責任なことは言えません。
難易度は標準ではありますが、頭に血が昇るとテンパる可能性はあります。
第2問
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)
2次方程式の虚数解をもとに複素数平面上で様々なことを考察する問題です。
俯瞰的に問題を眺めて大枠を掴んでからやり始めることで、何をするべきなのか迷いがなくなります。
解説記事でも紹介していますが、解き始めてざっと問題を俯瞰したときの自分のメモです。
頭に血を登らせながら、目の前の問題を近視眼的に倒そうと躍起になると、見えるものも見えなくなる恐れが出てきます。
試験場ではどうしても頭に血が昇ることはもちろん理解できます。
受験生の方々も試験場での緊張による「難易度の試験場補正」は十分承知のはずです。
なので、普段の学習段階から手を打つこともできるはずです。
来年度以降の受験生の皆さんは、
目の前の問題が試験場だったら
という意識で勉強してください。
今年の受験生の方は自覚があるでしょうが、試験場で出会った問題というのは強烈に記憶しているものです。(それだけ真剣に向き合うから当然ですが。)
その意識で普段から問題に向き合って、それを積み重ねたらどれだけのアドバンテージになるか、という話です。
(実際それを実践することの難しさもあるんですけどね。)
本問は「冷静な状態:標準」「頭に血が昇った状態:やや難」だと思います。
第3問
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)
見た瞬間、
(1) ができなければ (2) もできないやつだから差がつくな
と思いました。
(1) のテーマは絶対不等式の考え方で、定番のテーマです。
解きながら、「苦手な人にはキツイだろうなぁ」と思いました。
九州大学に受かるべくして受かる人からすれば、本問は標準的に感じる人が多いでしょう。
第4問
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)
新しい言葉をその場で定義しているので、基本的には、「その場力」を試す問題なのでしょう。
形的には「平均値の定理」を連想させる形ですね。
「複素数でも同じようなことが言えますか」ということを検証させるような趣旨かなと思いました。
聞かれていることをきちんと受け止めて出題者との会話のキャッチボールが成立すれば、難易度としては標準でしょう。
ただ、そのキャッチボールが成立せず、何が言えればよいのかを整理しきれないまま、場当たり的に解いてしまうと完答は難しいかもしれません。
難易度は標準~やや難でしょう。
第5問
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)
見た感じ本格的な匂いを感じました。
深入りすると時間を失うパターンの問題でしょう。
意外と (1) の方が書きづらさを感じるかもしれません。
なんせ「当たり前じゃん」と思えることを主張していますから。
二項係数なんだから
\({}_n \mathrm{ C }_1\) からスタートして増加して , いつか下がって , \({}_n \mathrm{ C }_{n-1}\) まで戻ってくる
じゃあ \(n\) より大きくなるに決まってるじゃんか
と思いましたが、「それを示すのがこの問題の趣旨」です。
ただ、このイメージは決して無駄ではなく、
\(\displaystyle \frac{a_{k+1}}{a_{k}}\) を考えて \(1\) と比較する方針
をインスピレーションさせてくれました。(確率でよくやる「例のアレ」です。)
もちろん、二項係数を具体的に書き下す方針もあると思います。
(2) は (1) が効いてきて意外とアッサリと終わってしまい、拍子抜けしましたが、決して簡単ではないと思います。
難易度はやや難でしょう。
総括
一昔前までは九州大学は小問が多く、誘導がしっかりとついていて標準的な問題がきっちりとできていれば対応できるという印象でしたが、昨年度に引き続き、本年度も割と本格的なセットが続きました。
これが一過性のものなのか、継続するのかについては分かりませんが、目先の難易度で学習の方針を決めることなく、どのような出題になったとしてもあたふたするようなことがないようにすることが大切なのではないかなと思います。
また、今年は第2問と第4問に複素数平面の問題がありました。
(第2問は処理面では2次方程式と三角関数に関する方程式がメインの内容ではありましたが。)
分野の偏りがあると言えばあるセットだったかなと思います。
まぁ来年度以降の受験生はあまりそのあたりに振り回されることなく、繰り返しになりますが、何が出されてもいいように準備しておく王道的な態度で臨んでください。
今年については
- 第1問、第2問、第3問 が完答が狙える問題だが、試験場補正のかかりやすい問題
- 第4問は時間次第
- 第5問 はその場力勝負
というセットだと思いました。
楽勝で丸々一問いただきという大問はなく、何かしら差が付くレベルの問題が並んでいたように思います。
頭に血が昇った状態だと解きづらい第2問と、数学Ⅲの内容で、絶対不等式という学習経験の有無で左右される第3問あたりが確保できるとアドバンテージがあったのではないかと思います。
2021年度 九州大学理系 各解説記事
2021年度 九州大学理系第1問【球と平面の位置関係と交円】
問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) 色々な方針が考えられます。 空間座標の問題においてはベクトルから攻めるのが常套手段ではあります。 その理由を説明するためには「方程式とは何ぞや」ということについて述べなければなりません。 「方程式とは何ぞや」ということをすごくざっくり言えば 「この=を満たす○○集まれ~」 です。 1次方程式 例:\(3x-4=5\) →意味:\(3x-4=5\) を満たす \(x\) 集まれ! →集まった結果(解):\(x=3\) ...
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問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) テーマとしては (1) が絶対不等式の考え方、(2) が x 軸回転体の体積ということですが、実質は (1) が山場です。 区間 \(I\) において \(f(x) \gt c\) ( \(c\) は定数 ) が常に成立するとは 区間 \(I\) における最小値を \(m\) として \(m \gt c\) が成立する。 ということが言えます。 その区間における最小値(一番雑魚)が \(c\) に勝てるのであれば、その他の連 ...
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2021年度 九州大学理系第4問【『平均値の性質』と複素数平面における存在命題の論証】
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