実践演習 整数系

複素数の2乗とピタゴラス数【2020年度 千葉大学】

問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

とてもシンプルな題意ですが、見かけとは裏腹にとっかかりが見えにくい難問です。

「逆ならいえるのに」という類の問題で論証色が強いため、傷がないように話を進めるとなると神経も使います。

千葉大の整数問題は割と本格的な問題も多いため、試験場では取捨選択も含めた判断がいるでしょう。

(以下ネタバレ注意)

 

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路線1:有理数の設定

ひとまず、

\((a+bi)^{2}=(a^{2}-b^{2})+2abi\)

ということから

  • 実部は \(a^{2}-b^{2}\)
  • 虚部は \(2ab\)

ということで、これらが整数という条件を使っていくことになります。

\(a\) ,  \(b\) が有理数であるということから

  • \(a=\displaystyle \frac{n}{m}\)
  • \(b=\displaystyle \frac{l}{k}\)

と設定するのが自然でしょうか。

ただし、分母まで符号を請け負う必要はないため、\(m\) ,  \(k\) は自然数の設定でよいでしょう。

そして、既約分数として表現するために、

  • \(m\) ,  \(n\) は互いに素
  • \(k\) ,  \(l\) は互いに素

と設定しておきます。

これにより、

$$\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
(\displaystyle \frac{n}{m})^{2}-(\displaystyle \frac{l}{k})^{2}=\alpha\\
\displaystyle \frac{2nl}{mk}=\beta
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$$

と整数 \(\alpha\) ,  \(\beta\) を用いて設定できます。

ここからの目標は

\(m=1\) ,  \(k=1\)

です。

取っ掛かり

よーく観察してみると分かりますが、

\((\displaystyle \frac{n}{m})^{2}-(\displaystyle \frac{l}{k})^{2}=\alpha\)

ということは、\(a\) ,  \(b\) のどちらかが整数だと分かれば、移項することで残りはほぼ自動的に整数だということが言えます。

なぜなら、既約分数が整数ならば、分母は \(1\) となるしかないからです。

どちらかが整数だと分かればいいので、どちらか一方に集中したいと思います。

そこで、\(b\) に相当する \(\displaystyle \frac{l}{k}\) を消去します。

\(\displaystyle \frac{2nl}{mk}=\beta\)

から

\(\displaystyle \frac{l}{k}=\displaystyle \frac{{\beta}m}{2n}\)

となります。

注意

このとき、\(n \neq 0\) 、すなわち \(a \neq 0\) である必要があり、場合分けの必要性が出てきます。

解答では \(a=0\) ,  \(b=0\) という特殊なケースはチャチャっと個別検証で片づけてしまうことにします。

\(\displaystyle \frac{l}{k}=\displaystyle \frac{{\beta}m}{2n}\)

\((\displaystyle \frac{n}{m})^{2}-(\displaystyle \frac{l}{k})^{2}=\alpha\)

に代入して整理すると

\({\beta}^{2}m^{4}=4n^{2}(n^{2}-{\alpha}m^{2})\)

を得ます。

\(m\) ,  \(n\) は互いに素であることから

\(\beta=nB\)

と、整数 \(B\) を用いて表せます。

したがって、

\(B^{2}m^{4}=4 (n^{2}-{\alpha}m^{2}) \ \cdots (★)\)

を得ます。

一方、

\(\displaystyle \frac{l}{k}=\displaystyle \frac{{\beta}m}{2n}=\displaystyle \frac{Bm}{2}\)

ということで、

\(\displaystyle \frac{Bm}{2}\) が約分されて、既約分数 \(\displaystyle \frac{l}{k}\) になったと考えると、分母の \(k\) は

\(k=1 \ , \ 2\)

ということになります。

目標は \(k=1\) でしたから、あとは\(k=2\) を否定すればよいわけです。

\(k=2\) のとき

\(k=2\) のとき

\(\displaystyle \frac{l}{2}=\displaystyle \frac{Bm}{2}\)

より、\(l=Bm\) ということになります。

\(k\) ,  \(l\) は互いに素ですから

\(l\) は奇数

ということになり、

\(B\) ,  \(m\) も奇数

ということが言えます。

そうなると、先ほどの \((★)\)

\(B^{2}m^{4}=4 (n^{2}-{\alpha}m^{2}) \ \cdots (★)\)

の左辺と右辺の偶奇が異なることになってしまいます。

これにより、\(k=2\) ということが否定され、\(k=1\) ということになり解決します。

路線2:ド・モアブルの定理によるイメージ

\(a+bi=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})\)

と、極形式で表すと、ド・モアブルの定理により

\((a+bi)^{2}=r^{2}(\cos{2\theta}+i\sin{2\theta})\)

ということになります。

したがって、

\((a+bi)^{2}={\alpha}+{\beta}i\)

とすると

という、イメージ図が立つでしょう。

これにより、

$$\begin{eqnarray}
{\alpha}^{2}+{\beta}^{2}&=& r^{4} \\
&=& (r^{2})^{2} \\
&=& (a^{2}+b^{2})^{2}
\end{eqnarray}$$

ということになり、

\((a^{2}+b^{2})^{2}\) が整数

ということが言えます。

これにより、

有理数 \(a^{2}+b^{2}\) は整数

となり、

$$\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
a^{2}-b^{2}=\alpha\\
2ab=\beta\\
a^{2}+b^{2}=\gamma
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$$

と、整数 \(\alpha\) ,  \(\beta\) ,  \(\gamma\) を用いて表せます。

ここから

\(a^{2}=\displaystyle \frac{{\gamma}+{\alpha}}{2}\) ,  \(b^{2}=\displaystyle \frac{{\gamma}-{\alpha}}{2}\)

とかなり簡潔に \(a\) ,  \(b\) の情報が得られます。

この路線は解答 PDF では【解1】で扱っています。

複素数の2乗計算とピタゴラス数

なお、この \(\alpha\) ,  \(\beta\) ,  \(\gamma\) は

\({\alpha}^{2}+{\beta}^{2}={\gamma}^{2}\)

を満たす整数ということでピタゴラス数ということになります。

例えば

\((2+i)^{2}=3+4i\) で、

\(3^{2}+4^{2}=5^{2}\)

\((3+2i)^{2}=5+12i\) で

\(5^{2}+12^{2}=13^{2}\)

\((4+3i)^{2}=7+24i\) で

\(7^{2}+24^{2}=25^{2}\)

というように、\((a+bi)^{2}\) を計算することで様々なピタゴラス数を得られるわけです。

ピタゴラス数については

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