場合の数・確率系 実践演習

漸化式の視覚化【視覚的な意味と操作の意味を考える】【2015年度 京都大学】

問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

\(\displaystyle \frac{1}{2}\) からスタートし、2種類の関数を用いて次々と値を出して数列を作っていくという操作について考えます。

京大らしく、シンプルな問題ですが簡単ではありません。

これまた京大の特徴の一つである「誘導がない」形式での出題なので、構想から自分で組み立てる必要があります。

(以下ネタバレ注意)

 

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この数列の振る舞いをどう捉えるか

簡単な実験をしてみても、中々核心まで辿り着けないでしょう。

問題の匂いから確率漸化式を疑うことはできるかもしれませんが、2種類の関数について、どのタイミングでどちらを使うかを追っていくことが大変なので頭を抱えてしまう人も多いでしょう。

この数列がどのような振る舞いをするかを視覚的に捉えてみます。

\(a_{n+1}=f(a_{n})\) で定まる数列の視覚化

ある関数 \(f(x)\) を用いて

\(a_{n+1}=f(a_{n})\)

と「代入して次、代入して次、\(\cdots\)」と定まっていく数列の振る舞いを目で見ると、次の図のようになります。

代入して得た値は、「縦軸」の値となります。

次の代入に備え、縦軸の値を「横軸」にもっていくためには

\(y=x\) ( 横軸の値と縦軸の値が等しくなるようなライン )

を書き添えることで解決します。

本問の場合

本問の漸化式を司る関数は2種類ありますので、若干図がうるさくなりますが、本問の数列の振る舞いを視覚化すると以下のようになります。

こうしてみると、\(\displaystyle \frac{2}{3}\) という値のほかに、キーとなる数値である \(\displaystyle \frac{1}{3}\)  という数字に辿り着きます。

恐らく多くの人が漸化式を立てる際

\(x_{n} \lt \displaystyle \frac{2}{3}\) となる確率を \(P_{n}\) とする。

という、本問の問題文で設定されているものを単純にそのまま運用しようとして困ってしまったのではないかと思います。

困るのは当然で、この \(\displaystyle \frac{1}{3}\) というキーナンバーに辿り着き

  • \(0\lt x_{n} \lt \displaystyle \frac{1}{3}\) となる状態
  • \(\displaystyle \frac{1}{3} \leq x_{n} \lt \displaystyle \frac{2}{3}\) となる状態
  • \(\displaystyle \frac{2}{3} \leq x_{n} \lt 1\) となる状態

という3種類の状態推移を考える必要があるわけです。

そこで、

  • \(0\lt x_{n} \lt \displaystyle \frac{1}{3}\) となる状態を \(A_{n}\)
  • \(\displaystyle \frac{1}{3} \leq x_{n} \lt \displaystyle \frac{2}{3}\) となる状態を \(B_{n}\)
  • \(\displaystyle \frac{2}{3} \leq x_{n} \lt 1\) となる状態を \(C_{n}\)

と設定し、

状態 \(A_{n}\) ,  \(B_{n}\) ,  \(C_{n}\) となる確率をそれぞれ

\(a_{n}\) ,  \(b_{n}\) ,  \(c_{n}\)

とします。

状態推移を視覚化

\(0\lt x_{n} \lt \displaystyle \frac{1}{3}\) からの状態推移

この図から分かる通り、状態 \(A_{n}\) からは

  • 確率 \(\displaystyle \frac{1}{2}\) で状態 \(A_{n+1}\)
  • 確率 \(\displaystyle \frac{1}{2}\) で状態 \(B_{n+1}\)

となります。

\(\displaystyle \frac{1}{3} \leq x_{n} \lt \displaystyle \frac{2}{3}\) からの状態推移

この図から分かる通り、状態 \(B_{n}\) からは

  • 確率 \(\displaystyle \frac{1}{2}\) で状態 \(A_{n+1}\)
  • 確率 \(\displaystyle \frac{1}{2}\) で状態 \(C_{n+1}\)

となります。

\(\displaystyle \frac{2}{3} \leq x_{n} \lt 1\) からの状態推移

この図から分かる通り、状態 \(C_{n}\) からは

  • 確率 \(\displaystyle \frac{1}{2}\) で状態 \(B_{n+1}\)
  • 確率 \(\displaystyle \frac{1}{2}\) で状態 \(C_{n+1}\)

となります。

漸化式の立式

状態推移を捉えることができれば

$$\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
a_{n+1} = \displaystyle \frac{1}{2} a_{n}+\displaystyle \frac{1}{2} b_{n} \\
b_{n+1} = \displaystyle \frac{1}{2} a_{n}+\displaystyle \frac{1}{2} c_{n} \\
c_{n+1} = \displaystyle \frac{1}{2} b_{n}+\displaystyle \frac{1}{2} c_{n} \\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$$

という連立漸化式が立式できます。

この立式ができれば、あとは漸化式の処理となります。

連立漸化式の基本は文字消去ですが、確率漸化式特有の隠れた条件

\(a_{n}+b_{n}+c_{n}=1\)

をうまいこと活用して処理していくことも、この分野では必要な力です。

漸化式の処理そのものについては、以下のシリーズも適宜活用してください。

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本問の操作的意味

今回の問題で扱っている2つの関数

\(f_{0}(x)=\displaystyle \frac{x}{2}\) ,  \(f_{1}(x)=\displaystyle \frac{x+1}{2}\)

について考えてみます。

\(f_{0}\) というのは、持ち込まれた \(x\) という値を

\(2\) で割る

という操作です。

同様に\(f_{1}\) というのは、持ち込まれた \(x\) という値を

\(1\)  を加えてから、\(2\) で割る

という操作です。

「\(2\) で割る」という操作の意味は、\(2\) 進法で考えると明確な意味があり、

2進数表示された数の「小数点を左に1個ずらす」

という意味があります。

普段 \(10\) 進法を使っている我々からすれば、\(10\) で割れば小数点が左に1個ズレるのを想像すればよいでしょう。

では、「\(1\)  を加えてから、\(2\) で割る」という操作の意味はどうでしょうか?

ぜひ考えてみましょう。

【総括】のあとに【参考】という項目を立ててこのことに触れてあります。

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