場合の数・確率系 実践演習

抽象的な事象の確率と漸化式【1985年度 東京大学】

問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。)

玉を取る、カードを取る、サイコロを投げる、といったいかにも確率の題材となる具体的試行ではなく、ある変数が整数 \(n\) という値をとる確率が \(p_{n}\) という抽象的な設定の問題です。

基本的な処理力だけでなく、その場力も加えた総合的な力が必要な良問です。

試験場ではキッチリと差がつく問題で、確保できればアドバンテージになる難易度だと言えましょう。

(以下ネタバレ注意)

 

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条件の立式

ひとまずは

\(X+Y=n\) となる確率が \((n+1)p_{n+1}\) である

ということを立式するところから始めます。

\(X+Y=n\) とは

\((X \ , \ Y)=(0 \ , \ n) \ , \ (1 \ , \ n-1) \ , \ \cdots \ , \ (n \ , \ 0)\)

のいずれかが起こるということであり、その確率は

\(p_{0} \cdot p_{n}+p_{1} \cdot p_{n-1}+\cdots+p_{n} \cdot p_{0}\)

です。

つまり、

\(\displaystyle \sum_{k=0}^{n} p_{k} \cdot p_{n-k}\)

であり、条件よりこれが \((n+1)p_{n+1}\) と等しいので

\(\displaystyle \sum_{k=0}^{n} p_{k} \cdot p_{n-k}=(n+1)p_{n+1}\)

という、何やら漸化式のようなものが得られます。

要領がつかめないとき

得体のしれない式であり、ここからどのように \(p_{1}\) ,  \(p_{2}\) ,  \(\cdots\) が得られていくのかという要領をつかむために、ひとまず実験してみることにします。

\(\displaystyle \sum_{k=0}^{n} p_{k} \cdot p_{n-k}=(n+1)p_{n+1}\)

において \(n=0\) とすると

\(p_{0} \cdot p_{0}=p_{1}\)

すなわち

\(p_{1}={p_{0}}^{2}\)

を得ます。

次に \(n=1\) としてみると

\(p_{0}p_{1}+p_{1}p_{0}=2p_{2}\)

で、先ほどの \(p_{1}={p_{0}}^{2}\) という結果も踏まえると

\(2{p_{0}}^{3}=2p_{2}\)

すなわち

\(p_{2}={p_{0}}^{3}\)

を得ます。

ここまでくると

  • \(p_{n}={p_{0}}^{n+1}\) ではないか?

という予想が立つと思います。

なんならダメ押しで \(n=2\) とでもしてみて、確信が持てるまで実験してみてください。

あとはこの予想を裏付ける証明を与えればよいことになります。

もちろん、漸化式が手元にある状態であることから、証明の手法としては

数学的帰納法

が最有力候補です。

今、手元にある漸化式は和に関する漸化式であり、上記実験で分かったように

  • \(p_{0}\) の情報が分かって \(p_{1}\) の情報が得られる
  • \(p_{0}\) ,  \(p_{1}\) の情報が分かって \(p_{2}\) の情報が得られる
  • \(p_{0}\) ,  \(p_{1}\) ,  \(p_{2}\) の情報が分かって \(p_{3}\) の情報が得られる

という要領で得られていきます。

したがって、帰納法のスタイルとしては

  • \(n=0\) で成り立つから \(n=1\) で成り立つ
  • \(n=0\) ,  \(n=1\) で成り立つから \(n=2\) で成り立つ
  • \(n=0\) ,  \(n=1\) ,  \(n=2\) で成り立つから \(n=3\) で成り立つ

という構造の帰納法(人生帰納法)で進めていきます。

帰納法のスタイルの選択については

参考帰納法の前段仮定【一昨日昨日(帰納)法】【人生帰納法】【2013年度 東京工業大学】【1998年度 大阪府立大学】

問題はこちら(画像をクリックするとPDFファイルで開きます。) 帰納法の肝である「前段仮定」について考える問題です。 通常の帰納法 昨日法 \(n=k\) のときの成立を仮定して、\(n=k+1\) ...

続きを見る

を参考にしてください。

帰納法によって

\(p_{n}={p_{0}}^{n+1}\)

ということが裏付けられたら、あとは

\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}p_{n}=1\)

ということを用いると

\(p_{0}=\displaystyle \frac{1}{2}\)

と得られるため

\(p_{n}=(\displaystyle \frac{1}{2})^{n+1}\)

となり、\(p_{n}\) については解決です。

後半の問いについて

\(p_{n}\) が求まれば、後半の求めるべき \(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}np_{n}\) という値は

\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}n(\displaystyle \frac{1}{2})^{n+1}\)

というものであり、この無限級数は部分和の極限、すなわち

\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} \displaystyle \sum_{k=0}^{n} k (\displaystyle \frac{1}{2})^{k+1}\)

を計算することになります。

この部分和はいわゆる

(等差)×(等比)型

と呼ばれる構造であり、公比をかけてズラし、辺々引くという

「カケズラ」

という態度で倒すのが常套手段です。

流石に、難関大受験生であれば、(等差)×(等比)型のシグマ計算は打ち損じが許されない必須の基本事項です。

なお、計算結果は

\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}np_{n}=1\)

となりますが、これはある意味当然と言える結果です。

そのことについては【総括】の中で少し触れてあります。

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